朝井リョウ作『武道館』を読んだ。
今年の誕生日に貰った唯一のプレゼント。それが、
朝井リョウ作『武道館』
もともと朝井リョウ氏が好きですし、何ならガッツリ朝井リョウ世代ですし、
しかも内容が女性アイドルについてとのことで、もう読まないわけがありませんでした。
事前に知人から
「普通の人からすると『朝井リョウやっぱすげぇな』って思うだろうけど、ヲタクからすると『うん、そうだよね、知ってる』って感じる部分が多いよ」と聞いていたのですが、本当にまさしくそれで。
読んだ後のエグられ具合からすると『何者』の方が断然メンタルをズタズタにされますね…ただあまりにもあっさりしているが故の後味の悪さがあったのはとても良かったです、好きです朝井リョウ氏(突然の告白)
以下、思いのままにつらつらと。※ネタバレ含んでいます※
①「不特定多数の集団:N」の存在と大地くん
朝井リョウ氏の作品のどこが、私を含めた同世代の共感を得るのかを考えた時に、
「不特定多数の集団:N」
の描き方が非常に上手い点が挙げられると、個人的には思っています。
いつでも誰とでも繋がれるツールが散在し、名前も顔も知らない人と交流ができる時代。
不特定多数の集団とコミュニケーションが取れるということは、裏を返せば自分自身が不特定多数の集団の一員になれるということ。
つまり、
どんな人でもN分の1になれるし、N分の1であることを進んで利用することも可能
なんですよね。
だから「匿名」が成り立っているし、「匿名」は面白い。
『武道館』に登場するNEXT YOUのメンバーはこの事実と常に戦っています。
相手にするのはファンでも学校の友人でもなくて、もっと概念的なNという存在。
どこの誰だか分からない相手と戦う一方、自分のことをよく知る限られた人物を求めるようになります。
「不特定多数」の対偶は「特定少数」。「N:1」じゃなくて「1:1」の関係性。
この作品の主人公・愛子で言えば、それが大地くんでした。
それにしても、
200P以降の愛子と大地くんのシーン、まじで大地くんがいいヤツでかっこいいんですけど!?!?!?!?!?!?
ということが結局言いたかっただけです、すみません…m(_ _)m
②「現場」に足を運ぶ意味
愛子は幼い時に武道館で見た大地くんの剣道の大会の記憶をずっと覚えています。
そして、彼女がアイドルを目指し、アイドルとなり、アイドルを続けている原動力がここにあります。
彼女が見た武道館…そこに集まる人々は誰一人として舞台上の人々の不幸なんて願っていない。舞台上の人々の幸せを見たくてここに来ている。
あぁ、ヲタクが現場に足を運ぶのも、こういうことなんだろうなぁと実感しました。
みんな、舞台上にいるアイドルたちの幸せな姿を見たくて、現場に足を運ぶ。通い続ける。ただ、それだけのこと。
とっても単純で、でもとっても根本的な部分に改めて気付かされた気がします。
誹謗とか中傷とか、辛辣な言葉とか、見たくないけど、でも時には自分も言ってしまうけど、
それでもやっぱりアイドルの幸せな顔を見たいから。一緒に笑いたいから。
どんなに辛いことを周りから言われても応援し続けるのだなぁと思いました。
「現場」があるって素敵なことですね。
③アイドルとして「普通すぎる」主人公・愛子
個人的にさすがだな〜と感じたのが、主人公・愛子のキャラクター設定。
愛子は事務所上がりではない、一般応募で選ばれた女の子で。
波奈のように最年長で芸歴が長いわけではないし、碧のように外見的に目を引くわけではなく、
真由のようにバラエティ要素に長けているわけでもないし、るりかのように最年少甘えん坊キャラでもない。
ただ歌うことが好き、踊ることが好き。それだけ。
要は他のメンバーより何かに秀でているわけではない、常に2,3番手で中の上レベルの、アイドルとしてはいたって普通の女の子
なんですよね。
この特徴がない女の子を主人公に据えて、周りの一芸に秀でているメンバーとどのように関わっていくかが、読んでいて面白かったです。
特に碧との関わり合い方や距離の詰め方、気持ちの察し方は、高校生の女の子なら誰でも一度は経験したことがあるのではと思います。
結末があのように終わるのも、「普通すぎる」主人公にある意味ふさわしいと感じました。
④とにかく切ない
最後に何ゆーてんだこいつみたいなこと言いますが、
とにかく切ない!!!これに尽きる!!!
アイドルとは?人生とは?
数々訪れる分岐点で各々が各々の考えのもとに、自分の答えを選択しようとし、もがき苦しみます。
その姿がほーーーーーーんとに切なくて切なくて(ToT)(ToT)(ToT)
いけないと分かっててもそっちを選んでしまう。理性と感情に揺れ動かされる。
正しいこととは?アイドルとして求められるあるべき姿とは?
自問自答を繰り返し涙を流す彼女たちの様子に、度々号泣していました。
いろんなことを考えながら読み進めていましたが、読了後の最初の感想は
あーーーーーー切ねえーーーーーーー!!!!!
これでした(笑)
先日の「タイプライターズ」という特番にて、朝井リョウ氏が「今の時代のアイドルは地球外生命体のような位置づけにある」的なニュアンスの発言をなさっていて。
この作品の中でもこのことを「異物」という表現で扱っています。
朝井リョウ氏自体、女性アイドルが好きですし、それこそASAYAN時代のモー娘。から見ていらっしゃる方なので、そのような方が今のアイドルをこう捉えていることが、個人的にとても興味深かったです。
アイドルって考えを巡らせれば巡らせるほど奥が深いですし、その分良いこと悪いこと両方見えてくるので、
純粋に目の前の光景を楽しむ時、アイドルとは何か?という永遠の命題について考える時、
どちらも楽しみながらヲタク続けていきたいです。…という単なる意思確認でした(笑)
☆おまけ
アイドルについて語る上で「男女の違い」は考えに入れなければならない大事な要素の1つだと思っています。
『武道館』の感想として盛り込むべき項目であることは理解していますが、
ここに触れると話が更に長くなるのと、ある程度個人的には結論が見えていて、その結論が現状ではどうすることもできない内容なので、今回は割愛させていただきました。
またどこかで機会があれば…